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2012年3月

書評 『デジタル文化資源の活用 : 地域の記憶とアーカイブ』 NPO知的資源イニシアティブ編 勉誠出版(2011)

「図書館界」63(6)(2012/3)掲載

 近頃、MLA(Museum, Library, Archives)連携を巡る議論がかまびすしい。こうした状況の背景には、連携の基盤としての資料のデジタル化やネットワーク化の一層の進展とともに、財政緊縮に伴う運営面からの危機感もあろう。ではそうした中、MLA連携とはいったい何を行うことを指すのだろうか、そして連携の先にはどのような像が結ばれるのだろうか。近年、主なものだけでも数冊のMLA連携を扱った図書が出版されているが、本書はその中でMLA連携を一つの切り口とした政策提言の書として読むことができる。

 ここで本書の構成を紹介する。まず、青柳正規(国立西洋美術館長)、高山正也(国立公文書館長)、長尾真(国立国会図書館長)の三氏による各組織のトップの視点と立場からMLA連携のあり方を語る鼎談を第1部に置く。続く第2部と第3部では、総勢11名の著者による論が展開される。第2部は「「連携」から「活用」へ」として、MLA連携の課題と展望とともに個別の事例を述べる。第3部「求められる制度と政策:デジタルアーカイブの構築を目指して」は、本書が構想するMLA連携像とともに、その実現のための制度設計を示す。以上により、NPO知的資源イニシアティブが開催したMLA連携の方向性を探るラウンドテーブルを元に「一連の議論と実践で明らかになってきた課題を明確にし、その課題を解決していく上での方向性を提示すること」に重点をおいている(岡本真氏「まえがき」)。

 さて、MLA連携を扱う類書を見ると、相互の類似点と相違点を巡る議論とともに、様々な個別の取り組みが紹介されている。ここからはMLA連携が実際には簡単ではないことが読み取れよう。例えば本書巻末にも、MLAの現状を職員数や来館者数、予算規模等から対比する「関連資料」が付されている。ここで館数をとって見ても図書館の4592館に対し、博物館は1356館、文書館にいたっては73館に過ぎない。こうした規模の違いは、具体的な連携におけるモデルを描きにくくするものだろう。松永しのぶ氏は「文化機関が連携するために」で、こうしたMLAの現状を整理するとともに、それぞれが扱う資料の性格、拠って立つ制度、職員の専門性の違いを指摘する。さらに言えば、例えば同じ図書館における公立図書館と大学図書館間のLL連携一つをとっても、制度的な課題等はもとより同一館種内に閉じがちな職員の意識もあいまって、具体的な連携はたやすいものではない。

 また、「図書館を核にしたMLA連携」として、慶應義塾大学におけるいくつかのチャレンジングな取り組みを紹介する入江伸氏は、多様な連携は必須としながらも、現状のMLA連携が広範な組織間の連携につながっておらず、かつ連携が必要な具体的プロジェクトも進んでいないとする。これは、先に述べたようにMLA連携として紹介される事例が個別の取り組みであり、その先にある連携の具体像が見えにくいことと通底する。さらに「学内における連携の取り組みは、組織や所蔵資料の再編へ直結する可能性を持つため難しい面がある」とし、明確なグランドデザインを欠く安易な連携の危険性を指摘していることには、留意すべきだ。

 ところで、本書のタイトルにもあるようにMLA連携の議論でキーとされるのは、資料のデジタル化である。しかしながら、90年代以降の大学図書館において取り組まれてきた資料の内製電子化による電子図書館が必ずしもメインストリームとなっていないように、利用と一体的なデジタル化でなければ、一部のかつ内向きの取り組みになってしまうだろう。もちろん増加し続けるボーンデジタル資料への対応は必要だが、技術先行の個別的な取り組みに陥ることのないよう、標準化と併せたMLA間の実質的な連携基盤の整備やMLAの外側との関係性も連携を巡る議論においては重要である。境真良氏が「デジタル化と著作権制度」で提案する文化資源としてのデジタルコンテンツを巡るライセンスモデル構築の議論もその一環であろう。また、第1部の鼎談で司会の吉見俊哉氏が「MALUI連携」として、人材育成の場としての「University」との連携、財政的な裏づけと人材活用のために「Industry」との連携の必要を訴えるのもこうした観点による。

 さて、ここまで連携の難しさを述べたが、一方で「内なるMLA連携」として岡野裕行氏が事例を示す文学館のように、従来MLAの要素を内包している施設も少なくない。また、歴史的、制度的経緯から分立しているMLAであるが、デジタル化の如何を問わず、資料を蓄積、整理、提供する社会における装置として、本質的な役割に変わりはないものである。以上を踏まえて、本書が提示するMLA連携のキーを3点あげる。「公共」という枠組み、「デジタル文化資源」という対象、それを支える「文化情報コーディネーター」という人材像である。

 南学氏の「「新しい公共」の概念とその構築」と藤原通孝氏の「指定管理者制度を超えて」では、従来の「公立」図書館が蔵書数や貸出し数を主要な活動指標としてきたこと、その役割が情報提供主体や情報収集手段の多様化により「情報提供の公共的空間」に変わりつつあることを指摘する。そこでは、いわゆる官製ワーキングプアの温床ともされる指定管理者制度もその最適化と評価制度の確立を前提に、一つの経営モデルとして示される。官が各種の事業を担う必然性が厳しく問われている今、官立MLAには経営感覚とともに、MLAという装置が担う役割への明確なビジョンが求められている。

 ここで、本書においてMLAが今後担うべき役割として示されるのが「デジタル文化資源」の構築と提供である。「デジタル文化資源構築の意義」において柳与志夫氏は、電子書籍を例に「マルチメディア化、オープン化・ネットワーク化、可変性、断片性と蓄積性、編集性」をキーワードに、今までパッケージに閉じ込められていた「文化資源」、つまり知のデジタル化における可能性を示す。しかし、言うまでもなくデジタル化されただけでは、文化資源とはなりえない。そこで、その文化資源としての社会的位置づけを担保するのが「公共性」という概念であり、それを支える装置としての役割が公共的利用を前提とするMLAに共通するものとされる。このような議論は、情報・知識の世界に構造変化が起きているとし、今後の図書館の方向性を論じた柳氏の前著(『知識の経営と図書館』勁草書房, 2009)から一貫したものであろう。

 また、こうした今後のMLAという装置とその連携という仕組みを支えるべき人材として、福島幸宏氏が提示するのが「文化情報エディター」、「文化情報コーディネーター」というモデルである。「地域拠点の形成と意義」では、パッケージ化されずに地域に遍在している多様な文化資源を「プレ文化情報資源」と位置づける。そしてそれらを収集、保存し「文化情報資源」として活用するスキームが示される。それは、地縁を生かしたローカルレベル拠点である「地域サテライト」、ついでリージョンレベルで中核都市単位の既存MLA施設が担う「地域拠点」、さらにナショナルレベルとして全国に数箇所設けられる「広域圏拠点」の3階層モデルである。まず地域サテライトは町・村の文化拠点としてボランティアベースで運営される。一方、地域拠点と広域圏拠点にはそれぞれ文化情報エディター、文化情報コーディネーターが配置され、従来の司書や学芸員の役割に加え、情報や人のつながりを編集し、コーディネイトする役割も担うという。ここでは地域への視点とともに、MLAの組織と人材の融合的あり方が主張される。もっとも各地域の特性や制度上の課題もあり、統合的モデルの構築には課題も多い。しかし、西口光夫氏が「地域情報は住民のなかにある」として述べる住民を巻き込んだ北摂アーカイブスの活動は中核市におけるモデルの一つであろう。また、「文化施設連携の効能と課題」で松岡資明氏が紹介する大阪を拠点としたエル・ライブラリーによる労働関係資料の収集活動や新潟県十日町市における古文書や写真といった地域資料を巡る地域住民と十日町情報館(市立図書館)の活動事例も都市や地方でのモデルといえる。

 続けて佐々木秀彦氏は「新しい担い手の創出」の中で、「文化情報コーディネーター」の養成モデルを論じる。また、文化資源を構築整理し、価値を付与して提供する従来の専門性とともに、求められる資質としてコミュニケーション力やマネジメント力を強調する。ここでは、文化情報のスペシャリストでありながら、狭い専門性に閉じこもらないファシリテーターとしての専門職像が求められている。

 最後になるが、冒頭の鼎談のタイトルは「記憶のちから」である。東日本大震災後にものされた本書の背景には、デジタル化等の状況における文化資源活用の可能性とともに、社会の記憶を如何に次世代に残すのかというMLAの本質への問いがあるように思う。そうした本書は、MLA連携のあり方はもちろんのこと、これからの図書館のあり方を構想する手がかりの一つにもなるだろう。

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