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シンポジウム「大学出版会と大学図書館の連携による「新しい学術情報流通の可能性を探る」」参加報告 : 大学出版会と大学図書館の連携を巡って考えたこと

「大学の図書館」 27(5)(2008/5)掲載

はじめに
 「デジタル環境下にあって、伝統的に学術情報流通の一翼を担ってきた大学出版会と大学図書館が、研究者、利用者のニーズに応えるために新たなる連携をすることは、果たして可能なのでしょうか?」 この問い掛けに始まるシンポジウム 注1)が、2008年3月12日(水)に、慶應義塾大学三田キャンパスで開催された。会場は定員を超える参加者でいっぱいであり、出版関係者、図書館員、教員など多様な顔ぶれも、テーマへの関心の高さをうかがわせるものであった。

「理念、仕組み、サポート」
 第1部は、3つの事例報告が行われた。
 現在、京都大学学術情報リポジトリ上では、京都大学学術出版会の出版物が、電子化され無料公開されている 注2)。鈴木哲也氏(京都大学学術出版会)は、出版ニーズの増大や大学教育の変質の指摘から説き起し、新しい学術コミュニケーションと出版ビジネスのあり方の可能性から、図書館との協働に至った背景を語った。とくに、「生業を越えて出版の理念を問い直す機会」として、図書館員との日常的な交流の意義を強調された。
 KOARA(慶應義塾大学機関リポジトリ)での学内出版物公開においては、慶應義塾大学出版会との連携のもと、学会と投稿規程見直しを行った上で、出版者・印刷会社を経たメタ・データ付きPDF ファイルを受け入れ、通常の図書館業務フローで処理するという、非常にシステマティックな「仕組み」を構築しているという。入江伸氏(慶應義塾大学メディアセンター本部)は、図書館がデジタル全文サービスのノウハウを構築する必要性を指摘しながら、出版サイドには、電子的出版を前提としたコンテンツ作成と技術整備を要望された。
 安修平氏((株)早稲田総研クリエイティブ)は、デジタル技術を活用して学内者に出版機会を提供するという同社の設立コンセプトを説明された。出版企画委員会が出版可否を検討し、市販する学術書とそれ以外の簡易版学術書および教科書にカテゴライズした上で、大学等からの費用負担という「サポート」を行って出版するモデルを想定しているとのことであった。
 以上の事例からもうかがえるように、デジタル環境下における出版と図書館との「連携」とは、両者の境目を曖昧にするものであるし、ときには両者の利害対立を伴う可能性もあるだろう。しかし、3つの事例は同時に、連携を実現するために必要な「理念」、安定的に動作させるための「仕組み」、継続性を担保するための「サポート」というポイントも示しているように思うが、いかがだろうか。

さまざまな視点、そして可能性
 続く第2 部は、図書館側として、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学の図書館(メディアセンター)の西郷和彦館長、加藤哲夫館長、杉山伸也所長、出版会側として、東京大学出版会の竹中英俊氏、慶應義塾大学出版会の小磯勝人氏、京都大学学術出版会の鈴木哲也氏によるパネルディスカッションが、東京電機大学出版局の植村八潮氏を司会に行われた。
 個人的には、連携におけるビジネスモデルに関する議論が交わされることを予想していたのだが、それに限られることなく、非常に多様な視点が提起される場となった。これは、図書館側のパネリストが館長だったことも一因かもしれないが、かえって「連携」を巡る様々な観点を意識させられることとなった。一つ一つ取り上げたいところだが、いくつかの論点の紹介に留めさせていただく。
・出版の役割
・大学出版会の変容の必要性
・媒体としての「本」の価値
・出版業界におけるデジタル化の遅れの問題
・出版者から見たリポジトリ収録に適合的なコンテンツの性格
・出版物をリポジトリで公開する際の費用負担や今後の継続的モデルのあり方
 強引にまとめるならば、デジタル化の潮流の中で「出版」の位置付けを問い直し、「本」の意義を再確認しながら、出版会の出版物をリポジトリに搭載するという具体例から、今後の連携の可能性を論議した、といったところだろうか。

 現在、学術情報のデジタル化に関して、商業出版社によるジャーナルの電子化を巡る昨今の動向は、多くの大学図書館にとって日常の課題であろうし、オープン・アクセスの潮流なども関心が高いところだと思う。一方、大学出版会の主要なコンテンツである学術書のデジタル化やビジネスモデルのありようは、「本」という媒体の性格からも、また大学出版会の拠って立つところからも、電子ジャーナルの世界とは同列に語れるものではない。そうした中、学術情報流通において本来近しい関係にある大学出版会と大学図書館の連携の試みは、デジタル化をキーにして始まったばかりである。そしてこうした状況は、アメリカでも変わりはないようだ。例えば、AAUP (Association of American University Presses) はARL (Association of Research Libraries)と、相互の連携を図る共同キャンペーンを行っており、複数大学での様々な連携事業の取り組みが紹介されている 注3)。言うなれば、ありうべきモデルを探る試行錯誤の段階と言えよう。
 また、Ithaka が発表したレポート "University Publishing In A Digital Age" 注4)では、大学出版会にデジタル化対応を求めるとともに、大学出版会と大学図書館相互の強みを活かし、弱点を補いあった上での連携の必要性を説く。かつ、この報告が連携を成功に導くためのポイントとしてあげるのは、資金の導入であり、学術コミュニケーションを巡る視点の共有であり、大学執行部との関わりであり、そして、組織や機関を超えた協働の重要さといった諸点である。以上は、このシンポジウムでの論点に通じるものであろう。

おわりに
 さて、今回のシンポジウムのテーマもまさにその一つであるが、最近、出版人によるデジタル化環境における図書館との関係性や連携の可能性への問いを目にする 注5)。いま、図書館員に求められているのは、等しく学術情報流通を支える者として、こうした問い掛けに応えていくことではないだろうか。

注1) シンポジウム案内ページ. http://www.ajup-net.com/top/0803sympo.shtml (accessed 2008-04-30)
注2)  「京都大学学術情報リポジトリと京都大学学術出版会との連携について」. http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=248  (accessed 2008-04-30)
注3) 2004:Year of the University Press. http://aaupnet.org/arlaaup/index.html (accessed 2008-04-30)
注4) 学術情報のデジタル化時代を生き抜く大学出版会の戦略とは?. カレントアウェアネス-E. 111 [2007.08.08]. http://current.ndl.go.jp/e679 (accessed 2008-04-30)
注5) ・橋元博樹. 学術情報流通における大学図書館と大学出版:AJUP の取り組みから. 現代の図書館. 45(1). 11-18. [2007.3]
  ・山本俊明. アメリカ型大学出版モデルのゆくえ:「デジタル時代における大学の学術情報発信」(イサカ報告)をめぐって. 大学出版. 74. 2-11. [2008.3]
  ・鈴木哲也. 知のコミュニケーションの核としての共同:学術情報リポジトリと大学出版会(京都大学の試み). 大学出版. 74. 21-27. [2008.3]
  ・植村八潮. 学術情報流通システムの再構築に向けて:大学出版部の役割. 情報管理. 51(1). 69-73. [2008.4]. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/51/1/51_69/_article/-char/ja (accessed 2008-04-30)
  ・日本出版学会2008 年度春季研究発表会特別シンポジウム「デジタル時代の図書館と出版」. http://www.shuppan.jp/event/event08S.html (accessed 2008-04-30)

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