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2011年5月

変化の時代と大学図書館 : 本の紹介

「大学図書館問題研究会京都支部報」211号(2003/2)掲載 

 「本の紹介」の第二回目も、前回にならって、テーマに沿って何冊かの本に触れる形をとらせていただきたいと思います。並べた本からひねり出したこのテーマ、なんとか脱線せずに、最後までご紹介できていればいいのですが・・・。

 今、大学は大きな変化の中にあると言われる。もっとも、「変化」は今に始まったことではないし、これからも続いていくものであろう。しかし、さまざまな方向からの変化の波が、形や大きさを変えて打ち寄せているのは、どうやら確かなことのようである。
 『大予測10年後の大学:日本の大学はここまで変わる』1)
この本は、社会構造や経済構造の変動、「大学」に対する期待の変化などの状況のもと、日本の大学の今後を予想する。少子化による大学経営の危機、国立大学の法人化、授業形態のあり方など、複数の著者が多様なテーマを論じており、現在の大学をめぐるトピックを概観することができる。大学職員の役割は教員の下請けではなく、学生支援や大学と社会の関係作りを始めとして、大学経営におけるより積極的役割と企画・マネジメント能力が求められる、との指摘は、図書館にも無関係ではないだろう。

 変化の波の中で電子化・情報化の波は、図書館に既に直接的な影響を与えている。この波が、大学と大学図書館のあり方に与える影響を考察しているのが、次の本である。
 『デジタル時代の大学と図書館:21世紀における学術情報資源マネジメント』2)
本書は、図書館員に限らず、学長や研究者など多様な著者の様々な主張からなる論文集であり、論考の舞台は主にアメリカである。しかし、コスト面から図書館のこれからの方向性を考察する「伝統的図書館存続の危機と高等教育への脅威」、デジタル時代における図書館員の役割を示す「なぜウェブは図書館ではないのか」といった論文をはじめ、日本にも共通する問題提起は多い。原著のタイトルは、『継続性の蜃気楼』。「今起こっている変革のなかで、大学における旧来の枠組みの継続性は、幻なのではないか」というメッセージであるという。変化の波の中にあって、何が変わり何が変わらないのか、という視点で通読しても、これからの図書館のあり方、大学のあり方、図書館と大学との関係性において、示唆を得るところは多い。

 変化の中では、利用者像も常に同じではない。図書館がサービスを提供する組織である以上、利用者=顧客のニーズに応じて、サービス像も変化していくべきなのは言うまでもないだろう。
 『図書館の評価を高める : 顧客満足とサービス品質』3)
本書は、マーケティング手法を用いて、利用者の図書館に対する期待を把握する調査法、利用者の満足を指向するサービス・プラン策定やサービスに対するフィードバック評価のあり方などを解説する。また、「図書館の使命」であるミッション・ステートメントを明示する重要さを指摘し、これをサービス優先度の判断基準や結果の評価基準などに用いることで、図書館運営を裏付けるものとして位置づける。実際のミッション・ステートメントの例や各種調査票なども掲載されており、参考になるだろう。

 ミッションにもとづく組織運営のあり方を考えるための一例として、企業マネジメントのための内容になるが、次の本がある。
 『ミッションマネジメント:価値創造企業への変革』4)
第1章「企業経営とミッションマネジメント」では、「「存在目的と事業」「願望」「価値観」からなるミッション体系を企業の「意志」として活動のトップに据え、そこから導かれる戦略と方針を実行に移し、その結果を評価する」という、ミッションマネジメントの概要が説明される。つづく第2章「ミッションの設定」では、優れたミッション・ステートメントの要件が述べられる。もっともこうしたミッションマネジメントは、利潤という明らかな達成目標がないという点で、むしろ非営利組織にとって重要であることは、従来言われてきたところであろう。また国立大学には、「目標・評価」の仕組みとして、法人化後の運営体制に取り入れられようとしている。本書は、あくまで企業経営の文脈で語られており、すべてがそのまま図書館に適用できるものではないが、第1章と第2章で示される、ミッションマネジメントの大枠についてだけでも、得るところはあるように思う。

 以前、ミッション・ステートメントについて書いたおりに(大図研京都支部報No.208)、「図書館は「誰のために何をするか」を「外」に対してわかりやすく伝えてこなかったのではないか」といったことを述べた。変化の大きな時代において、「図書館とは何か・何ができるのか・なぜ図書館でなければならないのか」という自らの存在意義の確認、そして今後向かおうとする方向を明確に示すことは、図書館自身にとっての意味はもとより、設置母体である大学等を始め、図書館組織外部に対しても欠かせないものとなるだろう。「図書館をどう見せるか」という「戦略」が、いっそう問われているといえる。
 『図書館広報実践ハンドブック : 広報戦略の全面展開を目指して』5)
この本は、「広報」を図書館にとっての「戦略」と位置づける。そのうえで広報手段として、「中長期計画書」「図書委員会」といった組織レベルのものから、「投書箱」のような直接利用者に対するものまで、これらを効果的なものにするポイントを含めて、多くの実践的な例をあげる。そしてこうした広報を試みるとき、図書館の内部に立ちふさがる「カベ」の数々(これらは「所詮無駄」説、「教員無理解」説、「利用者=わがまま」説のように命名される)が、失敗の経験にもとづいて分析される。そこで各「説」を説得し、組織としての広報の実現へ導く方法を逐一示してくれるところが、「実践ハンドブック」たるもう一つの所以だろう。まずはできる手段から実践してみるための手引きとして、また大学の中でどのように図書館の存在を主張するかという外への視点、さらに図書館自らが変わるための図書館自身に対する内への視点を磨くきっかけとしても、なかなか充実の一冊ではないだろうか。

1) 『大予測10年後の大学 : 日本の大学はここまで変わる』 大学未来問題研究会編著 東京:東洋経済新報社, 2001.7 246p ; 21cm ISBN:4492221999
2) 『デジタル時代の大学と図書館 : 21世紀における学術情報資源マネジメント』 B. L. ホーキンス, P. バッティン編 ; 三浦逸雄, 斎藤泰則, 廣田とし子訳 町田 : 玉川大学出版部, 2002.3 370p ; 22cm. -- (高等教育シリーズ ; 112) ISBN:4472402661
3) 『図書館の評価を高める : 顧客満足とサービス品質』 Peter Hernon, John R.Whitman ; 永田治樹訳 東京 : 丸善, 2002.9 xiii, 225p ; 21cm ISBN:4621070851
図書館におけるマーティングについては、次に訳者をはじめとする論考がある。「特集:図書館のマーケティング」『情報の科学と技術』49(2):1999.2
4) 『ミッションマネジメント : 価値創造企業への変革』 アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング著 東京 : 生産性出版, 1997.11 349p ; 20cm ISBN:4820116223
5) 『図書館広報実践ハンドブック : 広報戦略の全面展開を目指して』 私立大学図書館協会東地区部会研究部企画広報研究分科会編集 東京 : 日本図書館協会(発売), 2002.8 303p ; 21cm. --(企画広報研究分科会活動報告書 ; No.4) ISBN:4820402021

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シンポジウム「大学出版会と大学図書館の連携による「新しい学術情報流通の可能性を探る」」参加報告 : 大学出版会と大学図書館の連携を巡って考えたこと

「大学の図書館」 27(5)(2008/5)掲載

はじめに
 「デジタル環境下にあって、伝統的に学術情報流通の一翼を担ってきた大学出版会と大学図書館が、研究者、利用者のニーズに応えるために新たなる連携をすることは、果たして可能なのでしょうか?」 この問い掛けに始まるシンポジウム 注1)が、2008年3月12日(水)に、慶應義塾大学三田キャンパスで開催された。会場は定員を超える参加者でいっぱいであり、出版関係者、図書館員、教員など多様な顔ぶれも、テーマへの関心の高さをうかがわせるものであった。

「理念、仕組み、サポート」
 第1部は、3つの事例報告が行われた。
 現在、京都大学学術情報リポジトリ上では、京都大学学術出版会の出版物が、電子化され無料公開されている 注2)。鈴木哲也氏(京都大学学術出版会)は、出版ニーズの増大や大学教育の変質の指摘から説き起し、新しい学術コミュニケーションと出版ビジネスのあり方の可能性から、図書館との協働に至った背景を語った。とくに、「生業を越えて出版の理念を問い直す機会」として、図書館員との日常的な交流の意義を強調された。
 KOARA(慶應義塾大学機関リポジトリ)での学内出版物公開においては、慶應義塾大学出版会との連携のもと、学会と投稿規程見直しを行った上で、出版者・印刷会社を経たメタ・データ付きPDF ファイルを受け入れ、通常の図書館業務フローで処理するという、非常にシステマティックな「仕組み」を構築しているという。入江伸氏(慶應義塾大学メディアセンター本部)は、図書館がデジタル全文サービスのノウハウを構築する必要性を指摘しながら、出版サイドには、電子的出版を前提としたコンテンツ作成と技術整備を要望された。
 安修平氏((株)早稲田総研クリエイティブ)は、デジタル技術を活用して学内者に出版機会を提供するという同社の設立コンセプトを説明された。出版企画委員会が出版可否を検討し、市販する学術書とそれ以外の簡易版学術書および教科書にカテゴライズした上で、大学等からの費用負担という「サポート」を行って出版するモデルを想定しているとのことであった。
 以上の事例からもうかがえるように、デジタル環境下における出版と図書館との「連携」とは、両者の境目を曖昧にするものであるし、ときには両者の利害対立を伴う可能性もあるだろう。しかし、3つの事例は同時に、連携を実現するために必要な「理念」、安定的に動作させるための「仕組み」、継続性を担保するための「サポート」というポイントも示しているように思うが、いかがだろうか。

さまざまな視点、そして可能性
 続く第2 部は、図書館側として、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学の図書館(メディアセンター)の西郷和彦館長、加藤哲夫館長、杉山伸也所長、出版会側として、東京大学出版会の竹中英俊氏、慶應義塾大学出版会の小磯勝人氏、京都大学学術出版会の鈴木哲也氏によるパネルディスカッションが、東京電機大学出版局の植村八潮氏を司会に行われた。
 個人的には、連携におけるビジネスモデルに関する議論が交わされることを予想していたのだが、それに限られることなく、非常に多様な視点が提起される場となった。これは、図書館側のパネリストが館長だったことも一因かもしれないが、かえって「連携」を巡る様々な観点を意識させられることとなった。一つ一つ取り上げたいところだが、いくつかの論点の紹介に留めさせていただく。
・出版の役割
・大学出版会の変容の必要性
・媒体としての「本」の価値
・出版業界におけるデジタル化の遅れの問題
・出版者から見たリポジトリ収録に適合的なコンテンツの性格
・出版物をリポジトリで公開する際の費用負担や今後の継続的モデルのあり方
 強引にまとめるならば、デジタル化の潮流の中で「出版」の位置付けを問い直し、「本」の意義を再確認しながら、出版会の出版物をリポジトリに搭載するという具体例から、今後の連携の可能性を論議した、といったところだろうか。

 現在、学術情報のデジタル化に関して、商業出版社によるジャーナルの電子化を巡る昨今の動向は、多くの大学図書館にとって日常の課題であろうし、オープン・アクセスの潮流なども関心が高いところだと思う。一方、大学出版会の主要なコンテンツである学術書のデジタル化やビジネスモデルのありようは、「本」という媒体の性格からも、また大学出版会の拠って立つところからも、電子ジャーナルの世界とは同列に語れるものではない。そうした中、学術情報流通において本来近しい関係にある大学出版会と大学図書館の連携の試みは、デジタル化をキーにして始まったばかりである。そしてこうした状況は、アメリカでも変わりはないようだ。例えば、AAUP (Association of American University Presses) はARL (Association of Research Libraries)と、相互の連携を図る共同キャンペーンを行っており、複数大学での様々な連携事業の取り組みが紹介されている 注3)。言うなれば、ありうべきモデルを探る試行錯誤の段階と言えよう。
 また、Ithaka が発表したレポート "University Publishing In A Digital Age" 注4)では、大学出版会にデジタル化対応を求めるとともに、大学出版会と大学図書館相互の強みを活かし、弱点を補いあった上での連携の必要性を説く。かつ、この報告が連携を成功に導くためのポイントとしてあげるのは、資金の導入であり、学術コミュニケーションを巡る視点の共有であり、大学執行部との関わりであり、そして、組織や機関を超えた協働の重要さといった諸点である。以上は、このシンポジウムでの論点に通じるものであろう。

おわりに
 さて、今回のシンポジウムのテーマもまさにその一つであるが、最近、出版人によるデジタル化環境における図書館との関係性や連携の可能性への問いを目にする 注5)。いま、図書館員に求められているのは、等しく学術情報流通を支える者として、こうした問い掛けに応えていくことではないだろうか。

注1) シンポジウム案内ページ. http://www.ajup-net.com/top/0803sympo.shtml (accessed 2008-04-30)
注2)  「京都大学学術情報リポジトリと京都大学学術出版会との連携について」. http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=248  (accessed 2008-04-30)
注3) 2004:Year of the University Press. http://aaupnet.org/arlaaup/index.html (accessed 2008-04-30)
注4) 学術情報のデジタル化時代を生き抜く大学出版会の戦略とは?. カレントアウェアネス-E. 111 [2007.08.08]. http://current.ndl.go.jp/e679 (accessed 2008-04-30)
注5) ・橋元博樹. 学術情報流通における大学図書館と大学出版:AJUP の取り組みから. 現代の図書館. 45(1). 11-18. [2007.3]
  ・山本俊明. アメリカ型大学出版モデルのゆくえ:「デジタル時代における大学の学術情報発信」(イサカ報告)をめぐって. 大学出版. 74. 2-11. [2008.3]
  ・鈴木哲也. 知のコミュニケーションの核としての共同:学術情報リポジトリと大学出版会(京都大学の試み). 大学出版. 74. 21-27. [2008.3]
  ・植村八潮. 学術情報流通システムの再構築に向けて:大学出版部の役割. 情報管理. 51(1). 69-73. [2008.4]. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/51/1/51_69/_article/-char/ja (accessed 2008-04-30)
  ・日本出版学会2008 年度春季研究発表会特別シンポジウム「デジタル時代の図書館と出版」. http://www.shuppan.jp/event/event08S.html (accessed 2008-04-30)

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「人文・社会系分科会」参加報告「初年次教育におけるアカデミック・リテラシー教育から図書館利用教育へ」から

「大学の図書館」28(12)(2009/12)掲載

[大学図書館問題研究会 第40回全国大会(2009年) 主題別第1分科会(人文・社会系)]

 「初年次教育におけるアカデミック・リテラシー教育から図書館利用教育へ」と題したご講演を、高崎経済大学の高松正毅先生よりいただいた。一般に「初年次教育」は、生活面のスキルや講義の受け方に始まり、リサーチ・スキルから発信スキルに至る多様な内容で構成されているという。
 こうした初年次教育が必要とされるようになった背景について、学力低下問題に止まることなく、社会構造や社会風潮、さらにはコミュニケーションの有り様の変化など、多面的な切り口から論じられた。ついで、自ら考え表現する能力を大学生に必須とし、論文を書くことで身につけさせる高崎経済大学経済学部の科目「論文の読み方・書き方」の例を紹介された。

 続いて、参加者による各図書館の取り組みの紹介と意見交換が行われた。講演でも『図書館利用教育ガイドライン』が例示されたが、初年次教育のひとつであるリサーチ・スキル、つまり、図書館および各種ツール等の利用法は、従来、図書館で利用者教育として取り組まれてきている。そして、発信スキルを取り上げる例も現れてきている。しかしながら、高松先生が今後の課題として、カリキュラム等と連動した図書館利用教育との連携を挙げられたように、初年次教育と図書館の有機的な連携例は少ないようだ。
 そこで、会場の現職教員からの「教員は研究中心になりがちであり教えるプロではない。図書館員は教育にも積極的に関わるべき」とのコメントには、意を強くした。また、教員との連携の前提として、高松先生は、まず「教員に対する図書館利用教育」が求められることやパスファインダー等の整備の必要性を指摘された。

 今回の分科会は、大学の教育における図書館の積極的な取り組みの必要性とともに、そこでは、大学教育のあり方に自覚的な教員との協働が大きな力になることを感じた。

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