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シンポジウム「教育系サブジェクトリポジトリの 可能性を求めて:ネットワーク時代の教育情報 発信を考える」参加報告

 「大学の図書館」28(2)(2009/2)掲載

 東京学芸大学附属図書館では、国立情報学研究所による学術機関リポジトリ構築支援事業のプロジェクトの一つとして、「教育系サブジェクトリポジトリ」の構築を進めている。その一環として、標記のシンポジウムが、2008 年12 月18日、東京学芸大学附属図書館にて開催された。

 機関リポジトリを巡っては国内でも多くの事例が蓄積されつつあるが、「サブジェクト(主題別)リポジトリ」という取り組みは、ユニークなものである。筆者の所属する大学の機関リポジトリも、大阪教育大学、兵庫教育大学とともに構築実験に参加していることもあり、出席の機会を得た。以下、シンポジウムの内容についてご報告するとともに、とくに教育系大学におけるリポジトリのあり方について、考えてみたい。

 このプロジェクトは、国立教育系大学図書館協議会において、リポジトリ推進にあたっての協力体制を検討する中から生まれたものである。具体的な仕組みとしては、参加大学が、それぞれの機関リポジトリに収録されたコンテンツのうち、教育に関する研究成果について、「教育情報」であることを示すフラグと「学校種別」や「教科」など、教育分野に特化した主題項目のメタデータを付与する。フラグの付されたメタデータは、東京学芸大学のシステムから定期的に、自動で収集(ハーベスティング)される。この結果「教育系サブジェクトリポジトリ」からは、教育情報を統合的にかつ主題からも検索できるようになるというものである。

 講演では、まず、栗山正光氏(常盤大学人間科学部准教授)により、リポジトリの定義、オープンアクセス運動とリポジトリの関係が解説された。さらに国外におけるサブジェクトリポジトリの事例が紹介された。現在、国内のリポジトリは、その多くが国立情報学研究所のプロジェクトを受けて立ち上がった経緯上、ほとんどが「機関」リポジトリである。しかし、様々な背景や目的を持つ「サブジェクト」リポジトリからは、「リポジトリ」というコンセプトの持つ広がりを認識させられた。

 ついで、岡本真氏(Academic Resource Guide編集長)は、まず、現在の国内におけるリポジトリのあり方への懸念を示した。それは、求められる内容や提供するターゲットが必ずしも的確に設定されていないのではないかということ、図書館員だけの盛り上がりになっているのではないかということ、そしてそこにおいては、外部資金が切れたときの持続可能性に不安があることである。その上で、「教育系サブジェクトリポジトリ」に対する期待として、個人ウェブサイトなどにおける有用な教育情報の発信例を示して、「機関」外のものも収載対象とするあり方を挙げられた。

 岩田康之氏(東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター准教授)は、科研費プロジェクトにより「教師教育文献目録データベース」を構築した経験について、分野としての幅の広さ、現職教員から研究者まで様々な対象者を持つ、多様な資料が存在するなど、教育情報の特性を示しながら紹介された。また、DB 構築の背景として、近年、教員が学生に対し必読文献を示すといったかつてのようなフォローをしなくなっていること、院生がネットの検索結果に表示される文献をまず入手しようとすることなど、研究スタイルの変化を語られたのが、教員の生きた問題意識として印象的であった。最後に、東京学芸大学附属図書館の高井力氏が、実務担当者として、「教育系サブジェクトリポジトリ」のコンセプトや仕組みについて、デモを交えて解説された。

 その後、会場を交えてのパネルディスカッションが行われた。講演の部で、リポジトリのあり方や教育情報の特性がトピックになったことから、「教育系サブジェクトリポジトリ」が対象とするコンテンツや今後の方向性について、意見が交換されることとなった。

 まず、プロジェクトに参加している各大学の実務担当者から、収録資料や取り組みの現状についての発言があった。いずれの大学でも「まずはできるところから」ということで、紀要論文等の学内刊行物が主なコンテンツとなっているのは、共通する点であった。もっとも、大規模研究大学や医理工系分野以外では、こうした状況に大差はないと思われる。ところで、「教育実践資料」は、論文と並ぶ本プロジェクトの主要なコンテンツに位置づけられている。しかし、それらには、児童・生徒を特定できたり、顔写真が掲載されているものなど、プライバシー等の観点から扱いに苦慮する例が少なくないこと、その対応策として、当該部分をマスクした上でリポジトリに収載している事例が報告された。これにはまずはコンテンツ作成者側の意識が問われる必要があるとはいえ、今回報告されたような掲載コンテンツの扱いに関する実務面での手法は、今後いっそうの共有化が望ましいように感じた。

 また、機関リポジトリのあり方を巡って、会場から「機関リポジトリの一義的な役割とは、学内生産コンテンツをネット空間に固定することにあるのではないか」とする発言があったが、筆者も「大学電子出版プラットフォーム」としての機関リポジトリの機能は、重要なものだと考えている。大学からの情報発信の意義はもとより、「ネットワーク時代」の中では、研究活動においても「まず検索できること」が前提となりつつあるならば、埋もれている過去の刊行物も含め、学内研究成果をネット上に公開していく必要性はますます高まっている。

 その際、教育系大学にとっては、当面の主たるコンテンツのひとつは、やはり紀要類となってくるだろう。学問分野や大学の性格によるが、紀要には、発行の意思とともに、文献入手ニーズも相変わらず存在している。そこで、現在印刷物として紀要を発行している学内の体制と予算を機関リポジトリに振り向けることができれば、今後のリポジトリ事業の継続性を担保する方策のひとつになると考えるのだが、どうだろうか。

 さて、これまで機関リポジトリは、オープンアクセスの手段として、研究者の新たな発表媒体として位置づけられる傾向があったし、またその結果として、大学図書館は、リポジトリ事業を媒介に、研究者としての教員との新たな関係性を築きつつあるのは確かである。しかし、一方で、リポジトリに蓄積されネット上で可視化された様々なコンテンツをどのように評価し使っていくか、という教育の文脈における教員と大学図書館との連携やそこでの大学図書館員の役割は、今後問われてよいだろう。

 ついで、先述のように、国内の学術情報流通の実情に即して、実際に必要とされている紀要論文等の学内生産コンテンツに重点を置くというのも、機関リポジトリのあり方のひとつである。加えて、教育実践資料の例のように、従来のリポジトリコンテンツの枠に収まらない多様な資料を扱うことは、コンテンツ自体の持つ意義はもとより、リポジトリ全体の運用経験を成熟させる上でも、貴重な蓄積となるだろう。

 以上は、教育系リポジトリというフィールドにおいては、より求められる視点のように思われる。ともあれ、大学や学問分野の個性に応じて、様々なリポジトリが存在していいだろうし、またそこに蓄積されていくコンテンツの多様性は、リポジトリという制度自体の強みになっていくはずだ。そして、その上においてこそ、「教育系サブジェクトリポジトリ」による付加価値は、よりいっそう高まるのではないだろうか。今回は、「教育系サブジェクトリポジトリ」という切り口から、リポジトリ全般に渡る課題とともに、多様なリポジトリのあり方を巡っての可能性をも感じたシンポジウムであった。

※「[シンポジウム開催報告] 教育系サブジェクトリポジトリの可能性を求めて:ネットワーク時代の教育情報発信を考える

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