« てすと | トップページ | 山行記録 恵那山 »

本の紹介 『和本入門:千年生きる書物の世界』 橋口侯之介 平凡社(2005)

「大学図書館問題研究会京都支部報」268号(2009/2)掲載  

 「目録を取りたいけど専門的な知識がないし」、でも「やっぱり古いものだし大事にしないと」。そんなこんなで、和本が書庫に眠っている図書館は、少なくないのではないでしょうか。かくいう私の勤務する図書館も同様なのですが・・・。それはさておき、まずは和本のことを知ろうと、図書館学の教科書を手にとっても、通り一遍のことしか書いていない、かといって、書誌学の本は、なんだかとっつきにくい。そんなとき、「本の文化が形成される歴史的背景を探りながら、実際に和本を手にとるように、できるだけ実例で説明することに努めた」(まえがき)という本書は、和本の世界へ導いてくれる格好のガイドブックとしてお奨めです。

 まず「第一章 和本とはなにか」では、版型によって、「物之本」(教養書)や「草紙」(娯楽書)などのジャンルがおおよそ分かること、その伝統は現在の出版に受け継がれていることなど、今に続く和本の歴史や様式が語られます。
 続く「第二章 実習・和本の基礎知識」では、「どれがほんとうの書名か」「本名が出てこない著者欄」「巻数、冊数の調べかた」といった章題からもお察しいただけるように、初めて和本の目録を取ろうとしたときに頭を悩ませるあたりも、見るべきポイントを示しながら、分かりやすく解説されます。
 木版印刷の板木は長持ちしたため、版元間で売買されながら「百年はあたりまえ、なかには二百年以上経って増刷することもよくあった」(まえがき)。「第三章 和本はどのように刊行されたか」は、そんな江戸期の出版の様相とともに、「刊記・奥付の見かた」など、本の素性を明らかにする方法を教えてくれます。とくに江戸の名所案内本『江戸砂子』を例に、刊記や版元広告などから板木の行方を跡付ける過程は、ちょっとスリリングです。
 最後の「第四章 和本の入手と保存」は、古書店やネットなどで和本を入手する方法とともに、和本の保存方法や虫害対策などを取り上げます。たいていの和本はコピー機にかけても問題ないこと、電子レンジでチンして虫を殺す方法など、目からうろこでした(もっとも後者は、「奥さんに見つからないようにしないと、二度と電子レンジを使わせてもらえなくなる」とのことですが)。

 この本の著者、橋口候之助さんは、神田の和本専門古書店主。単なる「コレクション」ではなく、また研究対象としての「もの」でもない、現役で流通している「生きた本」として、日々和本を扱う著者の立ち位置が、本書の分かりやすさに加えて、親しみやすさをも醸しているように思えます。さて、橋口さんは、千年を生き得る和本の最大の敵として「無知」ゆえの廃棄をあげ、そうしたことを防ぐ手立てについて、次のように述べます。

 その第一歩は、敬して遠ざけるのでなく、身近で親しめる対象として和本を見ることである。とかく図書館などでは和本を「貴重本」として特別扱いするので、容易に閲覧できないことが多い。(中略)そのため和本を正しく扱う方法などを学ぶ場がなく、いつまで経っても和本と親しむ関係が育たない。ほんとうに文化財として大事に保管すべき本と、自由に閲覧してもよい本の区分けをしっかりすれば解決できることなので、一考をお願いしたい。(p.232)

 十年一昔で変わる電子的なサービスを提供しながら、百年、千年を越えてきた知を次に伝える。図書館のすべきことは多そうです。ともあれ、まずは本書を一読してから、書庫の和本を開いてみると、和本もこれまでとは違った顔を見せてくれるはずです。

 本書の続編として、江戸の出版文化をより深く掘り下げた『続和本入門:江戸の本屋と本づくり』が刊行されています。併せてお奨めします。

 橋口侯之介『千年生きる書物の世界』(和本入門; [正]), 平凡社, 2005.10
 同 『江戸の本屋と本づくり』(和本入門; 続), 平凡社, 2007.10

|

« てすと | トップページ | 山行記録 恵那山 »

図書館」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/501889/47810242

この記事へのトラックバック一覧です: 本の紹介 『和本入門:千年生きる書物の世界』 橋口侯之介 平凡社(2005):

« てすと | トップページ | 山行記録 恵那山 »